若きポーランド 1890-1918
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- 4月6日
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今回ご紹介するのは、京都国立近代美術館で開催されている若きポーランド[色彩と魂の詩1890-1918]です。2025/6/29(日)まで開催中です。
京都市京セラ美術館のお隣にあるので、二つとも見て回るといいですよね。
というわけで、京都市京セラ美術館でのモネ展の後に、こちらで開催中の若きポーランドも観覧して参りました。
京都国立近代美術館といえば、NYのワールド・トレード・センターや幕張メッセを手がけたことでも有名な、プリツカー賞受賞の建築家、槇文彦氏設計の建築物です。
「伝統工藝の継承」と「現代美術の実験」の二軸運営が最大の特徴です。河井寬次郎の陶芸と現代インスタレーションが同一空間に並ぶ展示構成は、京都という地の利を活かした独自性を発揮しています。槇文彦の建築が生む「石とガラスの対話」が、日本近代美術の複層性を象徴的に表現しています。
建物外にあります入り口でチケットを購入したら、自動ドアを潜り抜け、中へ。
本展覧会の大きな垂れ幕が見え、右手にある受付のところを右に入りますとエレベーターがあります。
エレベーターで3階まで上がると、本展の会場に辿り着きます。
入り口から一番遠い、奥のエリアから観覧は始まります。

1795年、ロシア・プロイセン・オーストリアによる分割以降、123年の間独立を失ったポーランド。国を失った人々が自らのアイデンティティの拠り所としたのが、芸術と文化でした。その中心地として重要な役割を果たしたのが、古都クラクフです。19世紀後半、ポーランドの歴史や文化的逸話を大きなスケールで描き名声を博したのがヤン・マテイコです。クラクフ美術学校校長を務めた彼のもとからは、数多くの若き芸術家たちが巣立ちます。彼らは、祖国の独立を願いつつ、そこに自らの心情を結びつけ、象徴性に富み色彩豊かな独自の芸術を広い分野で展開しました。「若きポーランド」と呼ばれた彼らは、同時代の西欧の美術や浮世絵などの日本美術を貪欲に呼吸しつつ、地方に残る伝統文化を発見・再解釈しながら、ポーランドの「国民芸術」のあるべき姿を模索しました。本展では、マテイコを前史とし、〈若きポーランド〉が生み出した芸術を包括的に、日本で初めて紹介します。
といわけで、まずは一番最初にヤン・マテイコさんの肖像画から始まります。

マテイコさんとても渋いお方ですね。
この作品が制作された頃、マテイコはクラクフの聖霊病院にあった中世の礼拝堂を解体から救うために、クラクフ市参事会と激しく争っていました。この戦いに敗れたマテイコは気分を害したためクラクフの名誉市民権を放棄し、のみならず自身の作品を決してクラクフで展示しないと宣言しています。
彼の知人で、当時ヤギェロン大学教授の歴史家スタニスワフ・タルノフスキはこの自画像を彼の最高傑作と評しているみたいです。
哀愁や深い疲労感を表した、完璧な傑作とまで評しています。
この自画像は、「国家の記憶を背負った個人の苦悩」を可視化した点で特筆されます。マテイコが生涯描き続けた歴史画の英雄たちの視線が、ここでは画家自身のまなざしとして結実していて、赤い椅子は歴代国王の玉座を連想させ、黒衣は分割下の祖国喪失を暗示しています。ポーランド美術史において、個人の内面性をここまで深化させた肖像画は他に例を見ないのではないでしょうか。
自画像の背景に暗示される「空虚な玉座」は、ポーランド王権の不在を告発する政治的メタファーでは?マテイコが生涯描き続けた歴史画の英雄たちの視線が、ここでは鑑賞者に向けられることで、「過去の栄光」と「現在の悲劇」の時間的緊張関係を生み出しているように思います。この自画像は、単なる自己表象を超え、''分割時代のポーランド人全体の「魂の鏡」''として機能しています。
マテイコの真の革新性は、''「歴史的事実の神話化」にある。分割下のポーランド人に「過去の栄光」を見せることで「未来の希望」を植え付けた点で、単なる画家を超えた「国民形成者」''と言えます。パリやウィーンでの受賞は、被占領国の芸術が宗主国の審美眼を凌駕した点で、文化的抵抗の成功例となっているのではないでしょうか。
次の作品はこちら。

こちらの「フィンランドの雲」は、コンラット・クシジャノフスキとワルシャワ美術学校の彼の生徒たちが夏に戸外制作旅行に出かけた際に描かれたものです。
なんと今回の若きポーランドで日本初公開の絵となります。
解説には「本作の主人公は、黄金色の黙想で満たされ、落ち着きを失い、酔っ払ったような空である」と画家本人が語っているようで、まさにその酔っ払ったような空に一目惚れしたのでご紹介させていただきました。
この作品は''「見えないものの可視化」''という点で、ポーランド分割期の芸術家たちが追求した「芸術による国家の再構築」と通底します。雲の有機的な形態は、抑圧された人々の集合的無意識を表象しているかのようですね。
次に着目したのがこちらの絵。

こちらも日本初公開の作品です。
本作品は、日本からの明確なインスピレーションを示す最初の作品の一つです。観者に向かって斜めに背を向けて座るモデルは、浮世絵に見られる髪型をしており、装飾豊かな赤い着物を着用しています。モデルの描き方、とりわけモデルが観者に向かって振り返るように背を向けている描写に喜多川歌麿や歌川広重による美人画の影響が指摘されており、ヴィチュウコフスキが浮世絵を深く研究したことがわかる作例となっています。
日本人としては、この時代のポーランドに影響を与えた作品というのは感慨深いものがありますね。
そして最後に飾られている2枚の絵がこちらです。


ラストを飾る圧巻の2枚でした。
《義勇軍のニケ》は’’「勝利のパラドックス」を、神話主題作品(仮に《ピューティアー》が存在する場合)は「予言の不確実性」’’を表現。いずれも分割期ポーランドの「運命への問い」を神話的言語で可視化した点で、マルチェフスキの芸術的使命を体現しているのではないでしょうか。
暁は、とてもギリシャ神話などが好きなので、こういう絵を見るとワクワクします。
戦争・競技・芸術における勝利を司る翼ある女神、ニケ。
葛飾北斎《富嶽三十六景》の「凱風快晴」に通じる「赤富士」の構図が、ニケの翼の広がりと相似性を持つらしい。(豆知識)
以上が、若きポーランドについてのご紹介となります。
素敵な作品の数々でしたね。
そして、同時期に4階のフロアで展示されている、コレクション・ギャラリーも観覧しました。

サッと中に入っただけで、そこまで詳しくは見ていないのですが、お気に入りだった作品を紹介。
今回の共通点は、ポップではっちゃけた色合いですね。
綺麗な色使いの作品が心に沁みました。
ぜひ皆様お時間がありましたら、4階のコレクション室も観覧してみてくださいね。
とても癒されますよ。
今回のご紹介は以上となります。
展覧会名:若きポーランド[色彩と魂の詩 1890-1918]
開催期間:2025/3/25(火)-2025/6/29(日) 10:00-18:00(金曜日は20:00まで)
場所:京都国立近代美術館
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