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空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン

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  • 4月12日
  • 読了時間: 7分

今回ご紹介するのは、現在あべのハルカス美術館で開催中の展覧会「空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン」です。2025/6/22(日)まで開催中です。


あべのハルカス美術館といえば、日本一の超高層ビル「あべのハルカス」16階に位置する都市型美術館ですね。

平日は夜20時まで開いているので、お仕事の人も、帰りにフラッと立ち寄ることができる美術館です。「都市の日常に溶け込む美術館」として、高層ビルの制約を逆手に取った先進的な展示技術と、交通至便性を最大限活用したアクセシビリティが特徴です。


16階までエスカレーターでちまちまと上った先に、展覧会の案内が見えてきます。


ジャン=ミッシェル・フォロン展覧会 入り口
ジャン=ミッシェル・フォロン展覧会 入り口

青い帽子の男、リトル・ハット・マンに導かれ、フォロンの世界は始まります。


ベルギー出身の20世紀を代表するアーティスト、ジャン=ミッシェル・フォロン、あなたはご存知ですか?

フォロンといえば、矢印?リトル・ハット・マン?ドローイング?

フォロンって一般の方にはそこまで認知度が高くないアーティストなんですよね。

今回の展覧会は、約30年ぶりの大回顧展で、フォロンそのものを知ることができる、そして多くの人にフォロンの名を知ってもらうことが期待される展覧会なので、ぜひこの機会にフォロンの魅力に触れてみてください。


ということで、フォロンについて、私が思うところを書いていきたいと思います。

フォロンは、1934年にベルギーの首都ブリュッセルにて、3人きょうだいの長男として生まれました。

印刷業を営む父は、幼い頃からいつも絵を描いていた息子に建築を学ばせようとしますが、アーティストへの夢を捨てきれないフォロンは、21歳で故国を飛び出し、パリ近郊でひたすらドローイングを描き続ける生活を送ります。5年後、その作品はアメリカの有名雑誌を飾ることとなり、そこからフォロンの名は一気に世界へと羽ばたいていきます。

とまあ、とても夢のある話ですね。夢は諦めなければ叶うを体現していて、憧れます。

本展覧会はパリ近郊でひたすら描いたというドローイングの絵からはじまります。

フォロンは、ドイツの現代建築家、ミース・ファン・デル・ローエの「Less is more(少ない方がより豊かである)」という格言に感銘を受け、黒と白のたった2色で豊かな世界を生み出したということです。

ところで皆さん、ドローイングって簡単そうですか?紙とペンだけで絵を描くのは簡単なのでは?はたまたシンプルすぎて難しい?

私は、ドローイング苦手です。

黒と白、単純な紙とペンの線だけで表現する世界。

フォロンの言葉に、「線は呼吸のようなもの。迷いが入れば作品が窒息する」というものがありますが、迷いなく線を引くのって難しいと思うんですよ。

ぜひ皆さんには、この難しいドローイングを描き続けたフォロンの作品を実際にみてほしいです。白と黒だけでこんなに色々な表現ができるんだと、新しい世界が広がるかと思います。


そこでまずは2つのドローイングを紹介します。


ジャン=ミッシェル・フォロン 無題
ジャン=ミッシェル・フォロン 無題



ジャン=ミッシェル・フォロン 無題
ジャン=ミッシェル・フォロン 無題

かなり個人的な好みですが、この2作品とても世界観が好きです。

1枚目は、レモンティー?レモンスカッシュ?はたまたレモネード?この大きなコップとそれに乗っている小さな人の対称。ストローで飲もうとしている様子がとても滑稽であり、シュールであり、ユーモア(※現実の矛盾を軽やかに風刺する白いユーモア[humour blank])の溢れる世界観ですよね。

2枚目は、小さな魚さんの水槽がソファとなっています。これまたとてもシュールでユーモア溢れるドローイングです。

日常のささいなものたちが命を吹き込まれ、色々なものに変身する世界。フォロンのドローイングは、現実に対して私たちが持っている先入観を軽々と飛び越え、新しい視点与えてくれるように思います。



展覧会のカバー絵ともなるリトル・ハット・マン(1974)
展覧会のカバー絵ともなるリトル・ハット・マン(1974)


次のご紹介は、第一章「あっち・こっち・どっち?」です。

フォロンといえば、矢印がモチーフの絵がたくさんあります。

フォロンの矢印には、社会的メッセージとして、現代人の方向性喪失を暗示しています。

「矢は身を守るために人類が最初に発明したもので。いまや私たちはその矢から身を守らねばならない」フォロンのこの言葉の意味を、私たちはこれらの絵から痛感することになります。


紹介する絵はこちらです。


1968 ジャン=ミッシェル・フォロン 無題
1968 ジャン=ミッシェル・フォロン 無題

フォロンが、矢印のテーマを思いついたのは、ちょうどブリュッセルからパリへ向かう道中だったと言います。フォロンは、旅路の暇つぶしに、道すがら矢印の標識を見つけては数を数えました。その数全部で1268個。矢印が氾濫する現実を、フォロンは写真でもとらえています。



1970 ジャン=ミッシェル・フォロン ニューヨーカー
1970 ジャン=ミッシェル・フォロン ニューヨーカー

人物の頭から飛び出す矢印たち。。。これまた私たちの想像を超えるドローイングですね。

これらの矢印は、数ある矢印の中で立ち止まり、想像することの自由、そして自分自身で自由に選択することの可能性を見せてくれているのかもしれません。

本当に本展覧会では、矢印をモチーフにした絵や写真がたくさんありますので、それぞれの矢印が何を指し示すのか、はたまたどこに私たちを導いてくれるのか、想像しながら観覧することでより一層楽しめるのではないでしょうか。


そして、本展覧会は、絵だけではなくて、人生のあらゆる問いへのフォロンの回答を覗き穴から見るコーナーがあります。


一つ目の問いと回答です。


問い
問い



覗き穴から見るフォロンの回答
覗き穴から見るフォロンの回答

彼の価値観や人生観に触れることができるコーナーでした。(色々な質問への回答が覗き穴から見れます。)

人生を愛すること、素敵ですね。彼の素敵な人柄が窺え知れます。


本展覧会では、フォロンが本当にたくさんのテーマをもとに、絵を描いていることがわかります。

都市や環境問題、人権問題、天文だけではなく、戦争というヘビーなテーマまでも描くフォロン。

彼は、ポスターやグラフィックデザインの技術も確かなもので、たくさんの作品を残しています。



フォロンの描くポスター
フォロンの描くポスター

雑誌の表紙からイラストレーターとしてのキャリアがはじまったフォロンは、オリベッティ社と出会い、タイプライターの宣伝広告を皮切りに、数々の広告デザインを手がけていくこととなります。

企業の商品宣伝から、フォロン自身も出演した映画による世界への平和発信まで、生涯600点以上のポスターを生み出しています。フォロンは、淡いにじみを生む水彩、鮮やかな色とはっきりとしたグラデーションのカラーインク、シルクスクリーンから、それぞれの広告のメッセージがもっとも伝わる手法を選びとっています。


また、フォロンは、オリベッティ社発刊の、フランツ・カフカ「変身」の挿絵も担当しています。


1973年 ジャン=ミッシェル・フォロン フランツ・カフカ「変身」
1973年 ジャン=ミッシェル・フォロン フランツ・カフカ「変身」

特筆すべき点は、グレーゴルの虫への変身を直接描かず、影や閉じたドアで不条理を表現している点です。

カフカの「悲劇を悲劇的に語らない」美学を継承し、シュルレアリスム的手法(日常と非日常の併置)を用いています。

この挿絵本はフォリオ版(350×285mm)という大型サイズで制作され、水彩の微妙なニュアンスを最大限に活かした「絵画的な書籍」として評価されています。現在ではプレミアが付き、オークションで高値取引される幻の一冊です。

暁は、カフカの「変身」好きなので、この一冊を見ることができ、嬉しく思います。



そうして展覧会の最後に、色々なテーマを描いてきたフォロンが、「鳥」をテーマにして制作した絵が紹介されます。


特に今回の展覧会で私が一番好きな作品がこちらです。


2003 ジャン=ミッシェル・フォロン 大天使
2003 ジャン=ミッシェル・フォロン 大天使

鳥は、フォロンにとって憧れの存在でした。万国共通の平和のシンボルである聖書の鳩のように、フォロンは、大いなる手から放たれた鳥たちに自由のイメージを重ねています。

フォロンの名前が掲げられた《大天使》の、カラフルな翼で上昇しようとする小さな人物は、鳥になりたいという憧れを叶えたフォロンの姿かもしれませんね。

こちらの絵は、空想旅行の終着点としての自由と希望を象徴する晩年の傑作です。

フォロンが生涯追求した「水平線の向こう側」への憧れが、ついに翼を得て具現化された瞬間と言えます。青い身体は現代人の匿名性を、輝く翼は人間の潜在的可能性を象徴し、鑑賞者に「それでも世界は美しい」と語りかけているかのようです。この作品は、フォロンが2005年に旅立つ直前の「遺言的なメッセージ」として、現在も新たな解釈を生み続けています。



今回はフォロン作品のアニメーションも2つほどあり、そちらも椅子に座ってじっくり鑑賞可能です。


展覧会作品のほんの一部しかご紹介できませんでしたが、いかがでしたでしょうか?

画家としてだけでなく、人としてもとても魅力的なフォロンを窺い知ることができます。

ぜひ皆様GWにでも足を運んでみてはいかがでしょう。



展覧会名:空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン

開催期間:2025/4/5(土)-2025/6/22(日) 10:00-20:00(土日祝は18:00まで)

場所:あべのハルカス美術館

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